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学会誌

論文抄録

『医学教育』45巻・第3号【抄録】2014年06月25日

INDEX
特集:多職種連携教育 Ⅰ 医療専門職の多職種連携に関する理論について
…春田 淳志,錦織 宏
特集:多職種連携教育 Ⅱ - 1 筑波大学における専門職連携教育の取り組み
-大学間連携により展開する専門職連携教育プログラム-
…前野 貴美
特集:多職種連携教育 Ⅱ - 2 医学部がない大学におけるIPEの取り組み
〜大学間連携によるIP演習の実現〜
…大塚 眞理子
特集:多職種連携教育 Ⅱ - 3 取り組み事例 千葉大学の場合
…酒井 郁子,朝比奈 真由美,前田 崇,関根 祐子,黒河内 仙奈,山田 響子
特集:多職種連携教育 Ⅱ - 4 昭和大学の体系的,段階的なチーム医療教育カリキュラム
…木内 祐二,倉田 なおみ,高木 康,高宮 有介,馬谷原 光織
片岡 竜太,下司 映一,鈴木 久義,田中 一正,倉田 知光
特集:多職種連携教育 Ⅱ - 5 多職種連携教育について〜神戸大学の場合〜
…平井 みどり
特集:多職種連携教育 Ⅲ インストラクショナルデザインと多職種連携教育への活用
…柴田 喜幸
招待論文 ドイツにおける医学教育と医師国家試験
…奈良 信雄,鈴木 利哉
招待論文 卒前教育・卒後臨床研修のシームレスな連携と診療科・地域の医師偏在解消を目指すフランスの医学教育
…鈴木 利哉,奈良 信雄
Ⅰ 医療専門職の多職種連携に関する理論について

春田 淳志*1,2 錦織 宏*3

要旨:
医療専門職の多職種連携に関する理論は多くの学問分野から成り立っており,実践への援用が難しい要因になっている.そこでこれらの理論を整理し,まず基盤となる社会構成主義・社会関係資本理論を説明し,その他の理論についてミクロ/メゾ/マクロの視点で記述する.
まず社会構成主義では社会的相互作用と個人間の相互作用の必要性を,また社会関係資本では共通の規範や価値観,理解を伴ったネットワークの重要性を,多職種連携の文脈で説明する.さらに社会福祉の理論を援用し,社会集団をミクロ・メゾ・マクロに分類して,多職種連携に関する理論を概説する.ミクロ(個人の学び)の視点からは,医学/医療者教育全般にとって基盤となる成人教育理論を提示し,さらに偏見を軽減するための条件を示した接触仮説,内集団と外集団をどのように区別しながらアイデンティティを確立していくかを示した社会的アイデンティティ理論を紹介する.メゾ(チームでの学び・実践)の視点からは,チームで学習すること・協働することをチーム学習・協働論で示し,チームが道具を使って,分業・協業しながら対象を拡大していく状況を活動理論で,チームプロセスをタックマンモデルで示す.またマクロ(組織での学び・実践)の視点として,複雑系と社会化についての理論を紹介する.
最後に,多職種連携をメタ視点でとらえた文献を紹介する.これらの理論と実践の往復に基づく経時的・多面的な省察により,多職種連携が促進することを期待する.
キーワード:多職種連携教育/実践,社会関係資本,社会構成主義,ミクロ・メゾ・マクロ,成人学習理論


*1 東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター,International Research Center for Medical Education, the University of Tokyo
[〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1医学部総合中央館207]
*2 王子生協病院,Oujiseikyo Hospital
*3 京都大学大学院医学研究科医学教育推進センター,Center for Medical Education, Kyoto University
受付日:2014年5月22日
Ⅱ - 1 筑波大学における専門職連携教育の取り組み
-大学間連携により展開する専門職連携教育プログラム-

前野 貴美*1

要旨:
筑波大学医学類における専門職連携教育プログラムは,カリキュラムの医療概論コースのチーム医療ユニットとして位置づけられ,入学直後から継続的に学ぶことができるように組まれている.医学群は医学類,看護学類,医療科学類の3つの学類で構成され,1年次のチーム討論,2年次のTeam-based Learning(TBL)を用いたプログラム,3年次のケア・コロキウムが,職種の異なる学生同士の専門職連携教育となっており,TBLは茨城県立医療大学,ケア・コロキウムは東京理科大学薬学部との大学間連携教育プログラムである.職種を広げ効果的なプログラムを実施するために,大学間連携は一つの方略になり得ると考えられる.
キーワード:専門職連携教育,大学間連携,Interprofessional problem-based learning (PBL),Team-based Learning (TBL)


*1 筑波大学医学群医学教育企画評価室,Center of Planning and Coordination for Medical Education (PCME), School of Medicine and Medical Sciences, University of Tsukuba
[〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1]
受付:2014年5月27日
Ⅱ - 2 医学部がない大学におけるIPEの取り組み
〜大学間連携によるIP演習の実現〜

大塚 眞理子*1

要旨:
本稿では,保健医療福祉学部(看護学科,理学療法学科,作業療法学科,社会福祉子ども学科,健康開発学科)を有する埼玉県立大学が,埼玉医科大学医学部と大学間連携によってIP演習を実現させたプロセスとその成果を報告する.大学間連携によるIPEの実現のためには,学長同士のIPE重要性の共有,双方のメリットの認識,取り組む教員同士の連携協働があった.埼玉県立大学の地域基盤型IPE(IP演習)の成果は,医学生にとっては人の生涯にわたるケア提供者としての自覚を高め,他の学科学生にとっては医師を含めたIPWの卒前教育となり,自分の職種の専門性の明確化とパートナーシップに基づく医師との関係形成に成果があった.
キーワード:専門職連携教育,大学間連携,地域基盤型IPE,教育効果


*1 埼玉県立大学,Saitama Prefectual University
[〒343-8540 埼玉県越谷市三野宮820番地]
受付:2014年5月26日
Ⅱ - 3 取り組み事例 千葉大学の場合

酒井 郁子*1 朝比奈 真由美*2 前田 崇*3 関根 祐子*4 黒河内 仙奈*1 山田 響子*5

要旨:
2007年から開始された千葉大学亥鼻IPEの受講学生はのべ5,679人,亥鼻IPEを受講した看護学部335人,医学部197人,薬学部(薬学科:薬剤師養成課程)84人,合計616人が卒業した.本報告では,亥鼻IPEの概要及び実績と,改善経過について述べる.
構成要素6項目からなる専門職連携コンピテンシーを研究的に開発した.これに基づき,Step1からStep4まで新たな学習到達目標の設定を行い,マトリックスを作成した.そこで学習到達目標に合わせた行動目標を設定し,学習内容および評価方法を洗練したことにより,千葉大学亥鼻IPEは自己主導型学習促進のための学習環境整備が整ったといえる.それに伴い,教職員のIPE参加が増加するなどの波及効果が明らかとなった.
今後は,臨地実習におけるIPEプログラムの開発及び基礎教育と継続教育のIPEの連動を行っていく予定である.
キーワード:専門職連携教育,学習効果,コンピテンシー,プログラム改善


*1 千葉大学大学院看護学研究科看護システム管理学,Nursing Systems Management Graduate School of Nursing, Chiba University
[〒260-8672 千葉市中央区亥鼻1-8-1]
*2 千葉大学医学部医学教育研究室,The Office of Medical Education, School of Medicine, Chiba University
*3 北里大学一般教育部,College of Liberal Arts and Sciences, Kitasato University
*4 千葉大学大学院薬学研究院実務薬学研究室,Department of Practical Pharmacy Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Chiba University
*5 千葉大学看護学部,School of Nursing, Chiba University
受付:2014年5月20日
Ⅱ - 4 昭和大学の体系的,段階的なチーム医療教育カリキュラム

木内 祐二*1 倉田 なおみ*1 高木 康*2 高宮 有介*2 馬谷原 光織*3 片岡 竜太*3
下司 映一*4 鈴木 久義*4 田中 一正*5 倉田 知光*5

要旨:
医学部・歯学部・薬学部・保健医療学部からなる医系総合大学の昭和大学では,チーム医療に積極的に貢献できる医療人の養成を目的に,全学部,全学年にわたる体系的,段階的な学部連携教育を導入している.低学年ではチーム医療の基盤作りとして,大学内外での体験実習(早期体験実習など)や問題解決型学習(PBLチュートリアル),高学年では実践力の習得を目標に,大学内外の病院や地域社会での参加型のチーム医療学習を,原則的に4学部合同カリキュラムとして実施している.全学を挙げたこうした取り組みにより,将来,さまざまな医療現場で患者中心のチーム医療を積極的に推進する医療人が育つことを期待している.
キーワード:多職種連的教育,早期体験実習,PBLチュートリアル,病院実習,地域医療実習


*1 昭和大学薬学部,School of Pharmacy, Showa University
[〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8]
*2 昭和大学医学部,School of Medicine, Showa University
*3 昭和大学歯学部,School of Dentistry, Showa University
*4 昭和大学保健医療学部,School of Nursing and Rehabilitation, Showa University
*5 昭和大学富士吉田教育部,Faculty of Arts and Sciences at Fujiyoshida, Showa University
受付:2014年5月15日
Ⅱ - 5 多職種連携教育について〜神戸大学の場合〜

平井 みどり*

要旨:
医療系学生にとって,チーム医療に対する理解とその実践について学ぶ事は重要である.そのような視点を学部教育に取り入れることの必要性は高いが,適切なモデルはいまだ不足している.神戸大学医学部医学科と保健学科は,初期体験臨床実習をチームで行う事を2007年から開始した.翌年には,薬学部の学生もそこに参加し,現在に至っている.また1年次だけでなく,4年次にはチーム医療を学ぶカリキュラムを導入し,そこでは多職種協働教育に基づいたチュートリアルを実施している.多職種協働教育の歴史は浅く,例も少ないため,教員が繰り返し意見交換を行ってプログラムとチュートリアルのシナリオを作り上げていった.また,教員による模擬チームカンファレンスも導入し,学生のシナリオに対する理解を深める一助とした.このプログラムを通して,学生だけでなく教員も他の職種に対する理解が深まった. 多職種協働教育は,将来チーム医療に貢献する医療従事者の人材育成に必須である.今後は医療だけでなく福祉の視点取り入れ,地域医療に根ざした医療人育成を行う必要がある.
キーワード:医療人,初期体験臨床実習,多職種協働(IPW),協働教育


*神戸大学医学部附属病院薬剤部,Kobe University Graduate School of Medicine
[〒650-0017 神戸市中央区楠町7-5-1]
受付:2014年5月8日
Ⅲ インストラクショナルデザインと多職種連携教育への活用

柴田 喜幸*1,2

要旨:
教育活動の効果と効率と魅力を高めることを目指す研究領域にインストラクショナルデザイン(以下,ID)がある.本稿では,IDプロセスの中心的な概念であるADDIEモデルを中心にその概略を示す.また,その知見を大学病院における多職種連携教育に活用した事例を紹介する.
キーワード:インストラクショナルデザイン,ADDIEモデル,成人教育,多職種連携


*1 産業医科大学産業医実務研修センター,University of Occupational and Environmental Health, Occupational Health training Center
[〒807-8556 北九州市八幡西区医生ケ丘1番1号]
*2 熊本大学大学院,Graduate School of Instructional Systems, Kumamoto University
受理:2014年5月9日
ドイツにおける医学教育と医師国家試験

奈良 信雄*1 鈴木 利哉*2

要旨
ドイツでは2003年に発効された「医師免許に関する規制法:Approbationsordung: AppOÄ」を契機に医学教育が大きく改革された.基本的には37校で同じカリキュラムに基づき教育されているが,昨今の医学の進歩や医療事情を鑑み,学際領域教育や臨床実習に重点を置いているなどに特色がある.医師国家試験は基礎医学履修後の2年終了時と,5年終了時の筆記試験と6年終了時の口頭試験が行われている.日本が医学教育を導入したドイツにおける医学教育改革は,わが国にとっても大いに参考になる.
キーワード:ドイツ医学教育


*1 東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター, Center for Education Research in Medicine and Dentistry, Tokyo Medical and Dental University,
[〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45]
*2 新潟大学医学部総合医学教育センター, Comprehensive Medical Education Center, Niigata University School of Medicine
受付:2014年4月10日,受理:2014年5月17日
卒前教育・卒後臨床研修のシームレスな連携と診療科・地域の医師偏在解消を目指すフランスの医学教育

鈴木 利哉*1 奈良 信雄*2

要旨:
フランスでは卒前教育・卒後臨床研修のシームレスな連携が行われており,診療科・地域の医師偏在解消を実現するための医学教育制度が整えられている.2004年のECN(Épreuves Classantes Nationales)導入を契機に診療科・地域の医師偏在が大きく改善された.わが国のような資格試験としての医師国家試験は行われていないが,独自のシステムで総合医と専門医を養成するフランスの医学教育は,わが国の医学教育,卒後臨床研修制度,専門医制度,診療科医師偏在問題,地域医師偏在問題の改善にとって大いに参考になる.
キーワード:フランス医学教育


*1 新潟大学総合医学教育センター, Comprehensive Medical Education Center, Niigata University School of Medicine, Faculty of Medicine
[〒951-8510 新潟県新潟市中央区旭町通1番町757]
*2 東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター, Center for Education Research in Medicine and Dentistry, Tokyo Medical and Dental University
受付:2014年4月24日,受理:2014年5月3日

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