学生・研修医・医療者教育指導者のための学修者評価ガイド
~理論と実践~

日本医学教育学会(21−22期) 学習者評価部会

第2章簡易版臨床能力評価法(Mini-CEX)

2) Mini-CEXを用いた評価の基本的な考え方

ABIMのMini-CEX評価票から、臨床能力の実践を観察し、評価する際の基本的な考え方を理解しましょう。

a. 評価項目:6項目評価と総合的臨床実践力の判定

  • ある臨床実践で求められる多様な能力を、各項目の観点で評価します。臨床の実践で求められる能力の領域やレベルは、患者や場面で異なります。評価者は、その臨床場面で必要な能力(コンピテンシー)をふまえ、知識や技能だけに偏らずにもれなく評価します(評価できない項目もあるかもしれませんが)。
  • 6つの項目は互いに関係し、影響します。評価学では「項目は独立していない」と言います。知識があればコミュニケーションも自信を持って適切に進めることが容易になり、診察技能が不足すると臨床判断も難しくなるでしょう。しかし、項目で示された観点は臨床実践を評価をする上で根拠となります。観察した実践において、項目が意味する行動がどの程度できたかを、評価者は分析しながら評価をつけることになります。
  • 「7.総合的臨床実践力」では、1~6項目の評価と、項目では評価できない事項も含めて、実践の全体を評価します。項目評価の平均点ではありません。

b. 評価尺度(9段階):求められる臨床実践の達成度・満足度の数値化

  • 順序尺度であり、実践の達成度・適否に基づいた絶対評価です。集団内での個人の相対的評価や、100点満点に対する%を数値化するものでもありません。
  • 診療は、医師として求められる質(レベル)以上で実践すべきと医師も患者も認識しています。その共通認識に基づいて、医師の最低限のレベルで実施できたのか(満足)、できなかったのか(不満)、また、優れた実践であったのかを、評価者が判定します。どの程度できれば「満足」「優」と判定するか、評価者・学習者間で共有していることが前提です。
  • なお、評価尺度4は、満足と分類されるものの「限界」と定義され、プログラム推奨の補習を通じてパフォーマンスを改善する必要性を伝えるものとしています。
  • Mini-CEXは観察した学習者の行動を判定して記録するツールです。実践(観察)できなかったことを推測して判定することのないように注意しましょう。
  • 判定した結果(数値)を第三者が正しく解釈するためにも、患者情報や診療の複雑性も記録しておくことが有用です。この複雑性とは疾患における診療の難しさに限らず、患者の社会的背景や患者自身の言語能力なども含まれます。複雑性の高さ低さの記述にとどまらず、具体的にどのように複雑であったのかを記載しておくとよいでしょう。
  • 臨床実践は複雑であり、実践の良否すなわち評価結果は、学習者の能力だけではなく、患者や状況によって変動します。従って、さまざまな場面で複数回、実践を記録することが、学習者個人の能力判定には必要となります。統一された課題を複数回実施するOSCEと異なり、Mini-CEXを複数回行うことは、統計学的数値で示される評価の信頼性(再現性・一貫性)以上の意味を持ちます。
  • Mini-CEXをテーマとした学術論文においても、便宜的に評点の信頼性(信頼性係数)を統計学的に検証しているものがあるかと思います。しかし、Mini-CEXでは遭遇する症例(課題)は毎回、何かしら異なる様相を持ちます。したがって論文の解釈には注意が必要ですし、OSCEの論文で示されるような、「統計解析の結果から○○回以上の課題数を強く推奨する。」という一般的な記述は困難となります。
  • 評価結果を臨床能力として一般化できるだけの「十分な」Mini-CEXとは、回数だけで規定されるものではないことはお分かりいただけたかと思います。
  • 複数回の実践記録のなかで、Mini-CEXの評点だけで判断せず、評価した設定の多様さ、症例の多様さ・複雑さ、フィードバックコメントの記載事項など、過去の評価記録を参照し、そのうえで観察評価を追加して行ったり、異なる評価者に評価を依頼したりしたうえ、「十分な」評価を行ったと、複数の有識者で合議されることが本来望まれます。加えて言えばMini-CEXという1つの評価ツールだけで、医療人の能力について「十分な」評価は不可能といえます。
  • このような「十分な」評価体制を築くことは、一朝一夕でできるものではありません。数年かかることもあるかもしれません。
  • 数年かかるかもしれないような評価体制を築く対価はあるのか?体制を築く前に評価者が疲弊するのではないか?いろいろな疑問や不安をお持ちになることと思います。
  • そこで本資料では、対価として「Mini-CEXを臨床指導方法として利用できる」ことを強調しながら、「どのように評価者の疲弊を防ぐか」にも着目して、Mini-CEXの準備から実践までの一案を提示したいと思います。とくに医学教育モデル・コア・カリキュラムの令和4年度改訂版に沿いながら解説しようと思います。