学生・研修医・医療者教育指導者のための学修者評価ガイド
~理論と実践~

日本医学教育学会(21−22期) 学習者評価部会

第2章簡易版臨床能力評価法(Mini-CEX)

1) Mini-CEXとは——米国における開発の歴史と評価理念

 1972年、米国内科試験委員会(ABIM)は、臨床能力評価法として慣習的に用いられていた研修医への口頭試問を廃止し、臨床実践のなかで観察評価する代替案を模索し、Clinical Evaluation Exercise(CEX)という評価方法を確立しました。

 CEXは、実際の診療現場で、研修医に一人の患者の初診を担当してもらい、経験豊富な1名の医師が約2時間その場で同席し、直接観察し、評価するものです。

 その後、20年近くCEXによる評価が続けられましたが、診療現場で評価者が約2時間ものあいだ、研修医の診療行為や診療態度を観察することは大変手間がかかり、年1回評価できたのは全研修医の83%、2回以上は32%という結果でした。少ない評価回数では、担当する症例、評価者、研修医の当日の体調などによって、評価結果が影響されるため、その評価結果が研修医の臨床能力として一般化できるのか、疑問視されました。

 そこで1990年代に簡易版CEX(Mini-CEX)が新たに開発されました。

 Mini-CEXでは、1回の直接観察評価時間を冒頭の15~25分としました。一方で、初診外来に限らず、再診外来、入院病棟、救急外来など様々な設定で実施することを許容しました。また、どの設定でも共通で使用できる、4評価項目(後に6項目)・9段階尺度の評点を含めた評価票を用意し、評価票はポケットサイズで複写式のものとしました。これにより、観察評価できる症例に遭遇したら、速やかにMini-CEXによる評価を記入することを可能としました。

 このような特徴を設けることで、 各研修医は約4か月のうち12~14症例の臨床現場での実践を直接観察する機会を確保できるようになり、評点の一貫性・再現性の指標値は許容できるレベルになりました。

 また、評価票が複写式となっていることで、評点やフィードバックコメントが記入された評価票の写しを、その場で研修医に手渡すことができるようになりました。直接観察結果に基づく、観察直後のフィードバックを、複数の症例について行うことができるため、評価における教育的効果を高めることとなりました。

Norcini, et al. Ann Intern Med. 1995;123:795-9.


このページでは、ABIMの評価票を和訳したものと、評価ガイドから注意事項を抜粋したものを示します。(ABIMのMini-CEXの評価票と評価ガイドはこちら)

ABIMのMini-CEX評価票

ABIMのMini-CEX評価票

ABIMのMini-CEX評価票(和訳)

【注意事項】

● 評価尺度4は、satisfactory「十分」と分類されるものの、marginal「限界」と定義され、プログラム推奨の補習で、観察され評価された臨床実践能力を改善する必要性を伝えるものです。

● 9段階の評価尺度を使用する際に推奨される2つのステップは以下の通りです。

ステップ1:観察され評価された臨床実践能力がunsatisfactory「不十分」、satisfactory「十分」、superior「優」のいずれであったかを判定する。

ステップ2:選択されたカテゴリー内で、観察された研修医の患者への対応を最もよく反映するのは、3段階のうちどれかを決定する。

● 本資料では、各評価項目について、関連するコンピテンシー領域が何かを別に記述しています。例えば、4.臨床判断は米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)が掲げるコンピテンシー領域の、Patient Care and Procedural Skills, Medical Knowledge, Practice-Based Learning and Improvement, System-Based Practiceと関連しそうである。というように記述しています。

● 本資料では、オリジナルサイトに合わせて「Mini-CEX」と先頭のMを大文字にしています。一方で、令和4年度改訂版医学教育モデル・コア・カリキュラムやCC-EPOCでは「mini-CEX」と先頭のmを小文字にしています。Mini、mini、どちらも用いられています。

(詳しくはABIMのサイトを参照)