学生・研修医・医療者教育指導者のための学修者評価ガイド
~理論と実践~

日本医学教育学会(21−22期) 学習者評価部会

第1章教育現場でコンピテンシーとEPAsを評価する際の理解のために

2) 実践編

(4) よくある質問とその回答
EPAsの設定はどのようにすればよいのでしょうか。
EPAsは様々な設定の仕方をすることができます。例えば、診療場面(外来診療、病棟診療、初期救急、地域医療等)、医学的専門分野(内分泌、循環器、呼吸器等)、疾患(気管支喘息、虚血性心疾患等)でその研修が修了する時点で終了者であれば修得しているべき業務能力を記載していきます。大切なのはその背景には必ず、その研修で設定されたコンピテンシーが包含されて繋がっていることを明示することです。それによって現場での業務を修得するとコンピテンシーを修得したことを担保できます。
EPAsはどの程度、細かくしてもよいのでしょうか。
特に決まりはありません。その研修の性質にもよります。学生や初期研修であればやや包括的になりますし、専門研修であれば詳細で具体的になると思います。ただ、研修の修了時点で設定された全てのEPAsを網羅的に修得する必要がありますので細かくすればするほど具体的にはなりますが、数が多くなり、学習者や教育者が目標として詳細を認識して評価するのが困難になると言えます。ですので、研修内容に合わせて適度に包括的で適度に具体的にすることになります。
EPAsはいくつくらい作るのが良いでしょうか。
前述のように設定によって変わりますが、通常は10~20個程度のことが多いです。詳細にすれば数が増えますがより具体的になり、包括的にすれば数が減りますが具体性が落ちるので研修内容によって変化すると言えます。
EPAsの修得はどのように判定すればよいのでしょうか。
EPAsは様々な評価法を組み合わせて評価することになります。また、その業務能力を評価するのに適した方法論を用いることも重要です。基本的には現場での実践を評価するWorkplace-based AssessmentなのでMini-CEXやDOPS、360度評価などを様々な場面で複数回の実績をもとに評価していくことになります。
どのような場合にEntrsutableと判断できますか。
例えば、Mini-CEXで何回合格点ならばEntrustableか?とは決められません。実践の現場では患者さん側や疾患側の難易度も変わりますし、スタッフの力量や施設の機能によっても医療者の発揮できる力量が変化することもあります。一方でクリアすべき課題が明確な場合は一回でもできればEntrustableと言えることも稀ですが、ありえます。ですので、実践に紐づけられた研修内容が目指すコンピテンシーを発揮して指導者が手を出さなくても安心して見ていられるような実践ができていれば回数はではなく、Entrustableと判断できるでしょう。
マイルストーンも作るのは大変だし、EPAsだけを現場で評価するならばまだしもコンピテンシーまで評価するのは大変ですが。
前述のようにEPAsの背景にそれぞれのEPAsがどのコンピテンシーを包含しているのかが明示され、設定されたEPAsが研修における全ての修得すべきコンピテンシーを網羅するように設計されていれば、極論を言えばコンピテンシー自体は評価できなくてもEPAsが修得されていればコンピテンシーを修得したと言えなくもないと言えるでしょう。EPAsの基礎にあるコンピテンシーの存在を学習者も教育者も意識することが大切です。
具体的にどのようにEPAsを作ればよいでしょうか。
研修システムを動かす主要なメンバー(管理者、指導者や有識者、場合によっては学習者)で討議して作るのが一般的でしょう。例えば、筆者は初期臨床研修の指導医講習会で研修評価票Ⅲに書かれている4つの診療場面(初期救急、外来診療、病棟診療、地域医療)についてグループワークで2年間の初期臨床研修が修了した時に指導医がいなくても一人で実践できるべき業務を作りましょうと言う形でEPAsを作成してもらっています。