医学教育2024,55(2): ~0 特集 インクルーシブ教育を考える 【5.医学部教育におけるダイバーシティ推進】 5-1.東京大学医学部におけるダイバーシティ, インクルージョン,コ・プロダクションの学部教育 里 村   嘉 弘*1, 2 金 原   明 子*1, 2 大 久 保   紗 佳*3 杉 本   達 哉*3 片 岡   朋 恵*3 小 西   優 歌*3 吉 川   桜 子*3 木 之 下   遼*4 末 松   万 宙*4 高 橋   優 輔*5 熊 倉   陽 介*1 長 谷 川   智 恵*1 佐 々 木   理 恵*2 山 口   創 生*6 澤 田   宇 多 子*7 宮 本   有 紀*2, 7 大 島   紀 人*8 熊 谷   晋 一 郎*9 笠 井   清 登*1, 2 要旨:  東京大学ではこれまで,バリアフリー支援室や医学部附属病院などにより,障害のある構成員のインクルージョン,学術研究のコ・プロダクション,ピアサポートワーカーとの協働に取り組んできた.これらの活動が合流する形で,2021年,医学のダイバーシティ教育研究センターを設立した.本センターでは,障害のある医療人材の活躍できる環境・文化を構築するため,医学教育に社会モデルの視点を導入し,もっともコ・プロダクションが実現しにくい分野である医学領域におけるその実装・普及を目指している.センターでは現在,医学部における教育プログラムの運営,学生主導による調査研究などの教育・研究活動を行っている. キーワード:ダイバーシティ&インクルージョン,コ・プロダクション,障害,ディスアビリティ,社会モデル 5-1. Education on Diversity, Inclusion, and Co-Production in the Faculty of Medicine, the University of Tokyo Yoshihiro Satomura*1, 2 Akiko Kanehara*1, 2 Suzuka Okubo*3 Tatsuya Sugimoto*3 Tomoe Kataoka*3 Yuka Konishi*3 Sakurako Kikkawa*3 Ryo Kinoshita*4 Mahiro Suematsu*4 Yusuke Takahashi*5 Yousuke Kumakura*1 Chie Hasegawa*1 Rie Sasaki*2 Sosei Yamaguchi*6 Utako Sawada*7 Yuki Miyamoto*2, 7 Norihito Oshima*8 Shin-Ichiro Kumagaya*9 Kiyoto Kasai*1, 2 Abstract:  The University of Tokyo Disability Services Office and the University of Tokyo Hospital have striven to advance the inclusion of individuals with disabilities and to encourage the co-production of research as well as mental health services with peer support workers. In convergence with these endeavors, the Center for Diversity in Medical Education and Research (CDMER) was founded in 2021. The Center aims to establish an environment and culture that facilitates the participation and success of medical professionals with disabilities. For this purpose, it is essential to integrate the perspective of the social model of disability into medical education and promote co-production in the medical field, which is among the most challenging areas that can realize co-production. The Center is involved in various educational and research activities, including managing educational programs for medical students and supporting student-led research. Keywords: diversity&inclusion,co-production,disability ,social model 1. 医学部におけるダイバーシティとインクルージョン教育の導入  近年,日本の医学領域でもダイバーシティ(多様性)についての取り組みが,ジェンダーを皮切りに始まっている.さらに,インクルージョン(包摂),コ・プロダクション(共同創造)という言葉も少しずつ耳にするようになった.東京大学では,こうした動きの前から,これらの概念の実装・普及に努めてきた.これには三つの流れの合流がある1, 2).  一つ目は,筆者のひとり,熊谷らによる,障害のある構成員のインクルージョンと学術研究のコ・プロダクションの活動である.具体的には,東京大学バリアフリー支援室長として,障害の社会モデルの理念にもとづき,キャンパスの基礎的環境整備や,障害のある学生や教職員のリーズナブル・アコモデーション(合理的配慮)を進めてきた.  また,本務先の先端科学技術研究センターで当事者研究Labを立ち上げた.サービスの最適なデザイン者はサービスの提供者ではなく,利用者であるという原点に立ち戻り,提供者と利用者が対等な立場でともにサービスを創り上げていくコ・プロダクションの理念を,学術研究のあり方に適用し,「研究の共同創造」を進めている.またその担い手として,障害を有する研究者である「ユーザーリサーチャー」の育成と登用を推進してきた.  二つ目は,医学系研究科精神看護学における,筆者のひとりである宮本らのピアサポートの研究と実践である.宮本らは,障害の体験を有するピアスタッフが支援チームの一員として他のスタッフと対等な立場で加わることにより,当事者の主体的な意思決定が支援され,望む生活や人生の回復につながることを示してきた.  三つ目の流れは,医学部附属病院における筆者のひとり,笠井らの組織変革(organizational change)の活動である.笠井らは,全国の医学部附属病院精神科において初めて,精神障害の経験を有するピアサポートワーカーの複数名雇用と治療チームへの参加を実現した.  一つ目の太い流れを作ってきた熊谷は,自らが脳性まひの当事者であり,かつ小児科医であることの経験から,自身のような障害のある構成員が医学・医療のよりよいサービスデザインに参画するコ・プロダクションに切実なニーズを持っていた.熊谷らのニーズや活動が,医学分野においてもう二つの流れとの合流を促し,全国の医学部として初めて,医学のダイバーシティ教育研究センターを2021年に設立することにつながった3).現在,東京大学医学部は,ダイバーシティのみならず,インクルージョン,コ・プロダクションにも射程を広げて,医学教育の変革を期待しており,医学のダイバーシティ教育研究センターの活動はその実現を目指している.その背景には2つの理由がある.   第1に,昨今医学教育において行動科学が重視されてきているものの,従来の医学モデルに偏った行動の理解が中心であり,それを変革することである.「障害のある構成員が社会に主体的に参加でき,社会モデルとしてのディスアビリティが減じていくにはどうすればよいのか」という視点にインフォームドな行動科学を創出し,医学教育に導入することである.  第2に,医学・医療という領域は,支援サービスの科学であり,本来,コ・プロダクションがもっとも導入されなければならない領域である.にもかかわらず,支援を提供する側としての参加条件として障害がないことが暗黙の前提とされてきたため(絶対的欠格条項こそ近年廃止されたが),障害のある構成員が卒前教育や卒後研修を受けることに対する障壁がもっとも高い領域の一つである.つまりコ・プロダクションがもっとも実現しにくい分野であることから,医学のダイバーシティ教育研究センターの目的は,これを変革するために取り組むことである.本稿でこれから述べる取り組みについて,このような理念と歴史的経緯があることを理解しながら読んでいただきたい. 2. 医学のダイバーシティ教育研究センターでの学部教育  東京大学医学部では,前述の経緯から,2021年に「医学のダイバーシティ教育研究センター」を設立した.本センターは,医療・医学領域において,障害を含めた多様な人材のインクルージョンを推進することでコ・プロダクションを実現し,当事者中心の医療サービスの質の向上を目指すものである.障害のある医療人材が活躍の場を広げていくためには,すべての医療従事者が,障害,および障害の社会モデルについて理解し,医療従事者自らがもつ障害へのスティグマを解消し,コ・プロダクションの素養を持つ必要がある.このためには,医学教育課程における関連領域の教育機会の確立が極めて重要となる.  特に精神医学分野は,多様な価値や社会的背景に配慮した支援,アンティスティグマ教育,ピアサポートワーカーとの協働などにかねてから取り組んでおり,ダイバーシティとインクルージョン(D&I)領域の医学教育においても重要な視点を提供することが可能である.以下,本センターが関わる教育活動について具体的に紹介する. 2-1. 医学のダイバーシティ&インクルージョン人材育成プログラム  この通年のプログラムでは,D&I,共同創造の意義を理解し,その素養をもつ医療人材の育成を目指している.医学部(医学科・健康総合科学科)の学生を対象として,障害の有無を問わず参加を呼びかけ,ピアサポートワーカーもスタッフとして参画し,参加学生が学びを深めてきた.ダイバーシティやインクルージョンに関連した領域の講義だけでなく,学生の自発的な提案により「医学部にインクルージョンの場は存在するのか?」をテーマにした学び合いの会も実施された.  見学・フィールドワークから調査・研究等に至るまで,学生とスタッフが共同でプログラムを創り上げていく実践に取り組んでいる.学生の関心があるテーマに関する発表やグループディスカッションを進める中で,看護学生・医学生の困りごとやニーズに関するアンケート調査を実施することとなった.プログラム以外の時間にオンラインミーティングで集まり,ニーズ調査項目を検討するなど,学生主体での取り組みが進んだ.  また,プログラム参加者からあがった声を発端に,心理的安全性を重視した職場作りや多様性を尊重する誰もが活躍する地域作りに取り組む四国の2施設を訪問する,2泊3日のスケジュールでの課外学習も行われた.参加学生からは,「ダイバーシティとインクルージョンに配慮した文化の育成,直面する課題,具体的な実践について,実際に現地を訪れ直接,お話を伺えたからこそ知り得たことが多くあった」,「ダイバーシティやインクルージョンに正解はなく試行を重ね志向し続けるものであることを改めて感じた」などの感想が得られた. 2-2. 抄読会  2-1.で述べた医学のD&I教育プログラムの一環として,ダイバーシティに関連する書籍を扱った抄読会を開催している.対象は関心のある医学生・研修医であるが,学内の関係者であればどなたでも参加していただけるようにしており,教育・医療・看護に関わる幅広いスタッフが内容に合わせて参加し,自由闊達な議論を交わしている.学生が安心して意見を出しやすいよう,学生に比較的世代が近い専攻医がファシリテーターを務めている.そのような背景から,内容の理解と共有はもちろんのこと,本の内容を背景とした相互理解の場を設けることを主眼としている.2022年度は米国の医学教育スタッフ向けのD&Iの専門的な書籍を扱った4).  書籍内では人権意識のレベルから日本よりも自然にD&Iが実践される米国の状況や,高度に発展しているがゆえに現場で生じるコンフリクトについても多くの具体例が扱われていた.米国の状況と彼我の違いに驚きつつも,日本で同様の実践を図るにはどのようにすればよいのか,参加者それぞれが身近なディスアビリティの例を出して話し合った.D&Iに関する視野を広げる観点から,次年度では看護・保健・人文科学などの幅広い書籍5-7)を毎回一冊ずつ扱う形を取り,そちらも好評である.一般的な抄読会よりは意識的に「ゆるく」運営しているのが特徴と言えるかもしれない.心理的な安全性を確保しつつ,普段の学びの場ではなかなか考えが及ばない一人ひとりのディスアビリティや,それを受容する社会の在り方について自由に考えられるよう,話し合いながら自由に運営している. 2-3. 医学科臨床実習    日本の医学教育において,行動科学を実践的に学ぶ機会は未だに乏しい.行動科学とは,狭義の医学モデルにもとづく人間行動の理解にとどまらない.社会とはどのように構成されているのか,ひとりひとりの人はどのように望む生活や人生を送ろうとしており,医療や医療人はそうした多様な価値にもとづく人生のなかでどのような位置づけをもつのか等の問いを含む,より広義の「人生行動科学」8)とでもいうべきものである.そこで医学部精神医学教室では,参加型臨床実習のなかで,医学のダイバーシティ教育研究センター所属のピアサポートワーカーや,当事者の価値にもとづく支援を実践・研究している精神保健福祉士出身の教員が教育スタッフとしてかかわっている.  担当した入院患者さんについて学生が短くプレゼンした上で,従来の医学における「症例」としてではなく,当事者を主体として,その生活・人生に生じる様々な出来事の一部としての疾患という視点から,多職種がコメントすることにしている.その人が,どのような体験や人間関係の中で,どのような価値観で生きてきたのか,生きていこうとしているのかという視点を共有している.精神疾患の症状を表現する際に,しばしば用いられる患者さんの尊厳を傷つける可能性のある言葉づかいについても取り上げ,患者さんのリカバリーに寄与する言葉や態度9, 10)について,共に考えるようにしている. 3. 学生の体験の紹介 3-1. プログラム全体について  私(筆者の一人,吉川)は,人それぞれの生きづらさを軽減する方法を考えたいと思い,多様性を認め合い個性や能力を発揮できるようにするD&Iを学ぶために,本プログラムに参加しました.東大医学部と東大病院精神科でD&Iに関するプログラムをしていると知った時,そこにはただ学ぶ以上の意味と影響力があるのではないかと思い嬉しかったのを今でも覚えています.   医学教育の場や障がいと共に生きる方々の周りの環境にはどんな困難がありどう改善できるか,スティグマや偏見にどう対処できるかなど医療関係に絞ってもD&Iの実践のために明らかにする必要のあること,議論すべきことはまだ数多くあること,それらに少しずつ粘り強く取り組んでいく重要性を学びました.また四国見学研修の発表を聞いて精神科病院や福祉施設で成功している取り組みや支援者が意識していることを知り,来院しやすい雰囲気の病院づくりや「支援のための支援」ではなく「利益とその先にあるやりがいのための支援」の実現可能性のヒントを得られました.  誰でも発言しやすい雰囲気で安心して話し合うことができ,毎回様々な学びがあり有意義な時間でした.普通に生活していると,こんなものだ,仕方がないと流してしまう事柄でも,本当に困っている人もいるかもしれない,どうすれば改善できるかと立ち止まって考えるようになったと思います.また調査を行う際には回答しやすい工夫や言葉遣い等への配慮をきめ細かく話し合い,意識の面でのD&Iの実践を体験できました.同時にどれだけ考えても他者の感覚や生きづらさを完全には分かり得ないこと,ある取り組みが必ずしも普遍的に成功する訳ではないことなど難しさも痛感しました.しかしそこで諦めず,完全には分かり合えないけれど,手を取り合おうとする意識や,試行錯誤してより良いあり方を模索しようとする,一種の教養としてのD&Iが大切なのではないかと思いました.   課題としては依然としてD&Iの実装のハードルの高さがあると思います.物理的なものであれば,実際に病院や学校の設備を変えるとなると経済的な問題や,既存の設備に慣れている人には不便になる事など多くの壁を越える必要があり,誰にとっても良いものにする事の難しさを感じます.また個人的にはD&Iは今の所,D&Iに賛同する人のみをインクルードできるように感じており,多様性を受け入れがたい・理解しがたいと思う人にも心地の良い,真の意味でのD&Iのあり方を考えていきたいです. 3-2. 看護学生・医学生の困りごと・ニーズ調査について  「ケアするためにはケアされる必要がある」.これは,私(筆者の一人,大久保)を看護の道へと導いたお一人である武井麻子先生が,あるご講演の際に伝えてくださった言葉です.そして私自身が看護科学専修の講義や実習,さまざまな経験の中で学んできた事柄が,この言葉に通じているように思っています.私は今回の「看護学生・医学生の困りごと・ニーズ調査」に,私自身が医学教育の中で受けてきた"ケア"への感謝の気持ちをこめて取り組んでいます.私は,学科の先生や同期をはじめ多くの方々に"ケア"していただけたおかげで,今,看護師として働く未来を思い描くことができています.  一方で,さまざまな苦労の中でいまも懸命に学びを続けている人,医療者を志す道から離れていった人,本来不必要なはずの戦いを経て学ぶ権利を獲得している人のことを考えます.教育の中に少しの"ケア"があれば拭えていた傷,失われていなかった可能性,出会えた仲間があったのかもしれないと思うと,やるせなく感じます.そして,医療のユーザーの一人としての私は,さまざまな障壁や苦労の中でも豊かな"ケア"を経験してきた人こそ医療現場にいてほしい,と思うのです.  今回の「看護学生・医学生の困りごと・ニーズ調査」では,看護学生・医学生の抱えている困りごとやニーズ,"ケア"に関する実態を明らかにするため,全国の看護学生・医学生へアンケート調査を行っています.質問票では,例えば校舎の構造上のバリア,講義でトラウマやプライバシーに触れる内容を扱う場面に関すること,またそのような経験や困りごとが学びの意欲や進路選択にどのような影響を与えたかについて,聞いています.今回の調査結果が,医学教育の中で当たり前になっている文化・慣習を問いなおす契機となり,"ケア"に溢れた教育現場から,自他を豊かに"ケア"できる医療者が多く育っていくことを期待します. 3-3. 抄読会について  私(筆者の一人,木之下)は大学に入る前に,井戸掘りをしたことがあります.真夏日に6人くらいでやりました.まわりの人々はみな父よりも年上.戦々恐々としながら,井戸水を引き当てるかどうか分からないまま黙々と土を掘りました.日が暮れて,30 m くらい掘った結果,運よく井戸水を引き当てることができました.その頃には,まわりの人は戦友となっており,その後の談笑会に続きました.そのときに,彼らが認知症当事者であったことを初めて知りました.気づかなかった.違和感を感じなかった.レッテルがなければ何も変わらないのではないか.この体験で社会のスティグマの強さを感じました.  また,この体験から,何気ない仕草や行動,発言が人を傷つける可能性を持っていることに気づきました.将来医師を志す立場として, ケアする立場に立つ者として,行為がかえって相手を傷つけていることはなんとしても避けたいと思い,多様性を肯定し受け入れる,D&Iの考え方を学びたいと思い,まずは抄読会から参加しました.  抄読会では,基本的に本をよんでその読後感を共有することを繰り返しています.本を読んでどう思ったか,その感想について医師の方や看護師の方,他職種の方,学生がどのように思ったかを共有する.本の内容は,海外のD&Iの現状だったり,ケアについてだったりさまざまです.どんな感想を持ってもこの場では許容され,咀嚼され,高度な次元に昇華される.この抄読会の場がすでに一種のインクルージョンであると感じております. 4. まとめ  本稿は,医学教育の専門家ではなかった筆者らが,日本の医学教育にダイバーシティ,インクルージョン,コ・プロダクションを導入しようとしてきた背景と実践について,現時点までの活動記録として,実際に参加している学生との共同で執筆したものである.医学教育に携わる専門家からの率直な意見,批判を得ながら,共同で日本の医学・医療にダイバーシティ,インクルージョン,コ・プロダクションを実装・普及できることを願っている.本稿に紹介した学生教育プログラムは,主体的なモチベーションのある学生の任意参加であるが,医学部学生の正規教育課程にダイバーシティ,インクルージョン,コ・プロダクション,広義の行動科学をどのように導入していくのか,今後とも小実験と検証を繰り返していきたい.筆者らは,2023年度から,東京大学履修証明プログラムとして,障害を有しながら医療に従事する医師,看護師,医学研究者等向けのコース(医学のダイバーシティ人材養成コース)を設置し,障害のある医療人数名が参加して,お互いの経験を共有し,ダイバーシティ,インクルージョン,コ・プロダクションの概念を更新するようなプログラムを行っている.教育というより,教員が「学ばせていただいている」といった方が実情に即しているが,こうした医療人の方々と医学部学生の交流などを今後進めていきたい.こうした医学・医療という,もっともコ・プロダクションが必要だが,もっとも困難であった領域での小実験から得られた知が,大学という学問の場にフィードバックされ,研究の共同創造,研究の民主化という,新たな,かつ本来的な,学術のあり方が生み出されることが期待される.東京大学では多様性包摂共創センターが2024年4月1日からスタートする予定であり,医学のダイバーシティ教育研究センターと相互に知を共有し,発展を目指したい. 謝 辞  学生の課外実習を快くお引き受けいただいた徳島県徳島市・むつみホスピタル理事長の井上秀之先生,愛媛県愛南町・公益財団法人正光会・御荘診療所の長野敏宏先生に厚く御礼申し上げる.本稿で述べた取り組みの一部は,文部科学省・学術変革領域A「当事者化行動科学」,課題解決型高度医療人材養成プログラム「価値に基づく支援者育成」,科学研究費助成事業基盤研究(C)「医療の共同創造に向けた障害のある医療人材が参加できる組織条件の検討と介入法の開発研究」の支援を受けた. 研究費:  文部科学省・学術変革領域A「当事者化行動科学」,課題解決型高度医療人材養成プログラム「価値に基づく支援者育成」,科学研究費助成事業基盤研究(C)「医療の共同創造に向けた障害のある医療人材が参加できる組織条件の検討と介入法の開発研究」 文 献 1) 笠井清登(総編集).こころの支援と社会モデル(TICPOC).金剛出版,東京,2023. 2) 笠井清登.治療者文化から治療関係文化への転回(は可能か?)―making of and doing TICPOC. 臨床心理学増刊,第14号「こころの治療を再考する」金剛出版,東京,2022. 3) 金原明子,里村嘉弘,笠井清登.医学におけるダイバーシティとインクルージョン教育・研究の取り組み.こころの科学2023;228: 93-7. 4) Equal Access for Students with Disabilities.The Guide for Health Science and Professional Education: Meeks, Lisa M., Jain, Neera R., Laird, Elisa P., 2020. 5) YPS横浜ピアスタッフ協会,NPO法人コンボ,蔭山正子.生きづらさをひも解く 私たちの精神疾患,2023. 6) 武井麻子.感情と看護,2001 7) 村上靖彦.ケアとは何か-看護・福祉で大事なこと,2021 8) 笠井清登,岡ノ谷一夫,能智正博,福田正人(編集).人生行動科学としての思春期学,東京大学出版会,東京,2020. 9) West Australian Mental Health Advocacy Service. Treatment support and discharge plans inquiry. 2018. https://www.wa.gov.au/system/files/2022-02/Treatment-Support-and-Discharge-Plans-TSD-PLANS-Inquiry-final-report-March-2018.PDF 10) Vialle B. Attending to context and avoiding 'doublespeak' in recovery-focused language: A reply to Stampfer. Aust N Z J Psychiatry 2019 Dec; 53(12):1226-7. *1 東京大学医学部 精神神経科,Department of Neuropsychiatry, Faculty of Medicine, The University of Tokyo *2 東京大学医学系研究科 医学のダイバーシティ教育研究センター,Center for Diversity in Medical Education and Research, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, The University of Tokyo *3 東京大学医学部健康総合科学科,School of Integrated Health Sciences, Faculty of Medicine, The University of Tokyo *4 東京大学医学部医学科,Faculty of Medicine, The University of Tokyo *5 精神医学研究所附属 東京武蔵野病院,Department of Psychiatry, Tokyo Musashino Hospital *6 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部,Department of Community Mental Health & Law, National Institute of Mental Health, NCNP, National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) *7 東京大学大学院医学系研究科 精神看護学分野,Department of Mental Health / Psychiatric Nursing, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo *8 東京大学 相談支援研究開発センター,Center for Research on Counseling and Support Services, The University of Tokyo *9 東京大学先端科学技術研究センター,Research Center for Advanced Science and Technology, The University of Tokyo 受付:2024年4月1日,受理:2024年4月2日