医学教育2024,55(2): ~0 特集 インクルーシブ教育を考える 2.日本の高等教育機関における障害学生支援の基本と 医学教育における合理的配慮の課題 舩 越   高 樹* 要旨:  2024年4月1日,日本では「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の改正法が施行され,国公私立を問わずすべての高等教育機関において合理的配慮の提供が義務化された.それに伴い文部科学省が公開した「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)」を参照しつつ,日本における障害学生支援の基本的事項について概観する.それと共に,医療職養成という社会的責任がきわめて重い医療系学部の教育において同時に進められている教育内容・方法,学修成果の評価方法の明確化と個別のニーズに応じた柔軟な対応を求める合理的配慮提供との間のコンフリクトへの対処法について,米国での先行事例を参照しつつ考察する. キーワード:障害の社会モデル,合理的配慮,建設的対話,テクニカルスタンダード,Diversity, Equity & Inclusion 2. Basics of Support for Students with Disabilities in Japanese Higher Education Institutions and Issues of Reasonable Accommodation in Medical Education Koju Funakoshi* Abstract:  On April 1, 2024, Japan’s revised Act for Eliminating Discrimination against Persons with Disabilities came into effect, mandating the provision of reasonable accommodations at all higher education institutions in Japan, whether national, public, or private. In response to this legislative change, the Ministry of Education, Culture, Sports, Science, and Technology (MEXT) released ‘Report of the Study Group on Support for Students with Disabilities (Third Summary),’ which outlines the fundamental issues regarding support for students with disabilities in Japan. Furthermore, this paper will explore how to address conflicts arising from the need to clarify educational content, teaching methods, and methods for evaluating learning outcomes, alongside the need to provide reasonable accommodations that require flexible responses to individual needs. These challenges are particularly pressing in the context of medical faculties, which bear a significant social responsibility for training medical professionals. We will refer to precedents in the U.S. to inform our discussion. Keywords: social model of disability, reasonable accommodation, constructive dialogue, technical standards, Diversity Equity & Inclusion はじめに  2024年4月1日,日本では「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下,障害者差別解消法)」1)の改正法が施行され,障害のある人々に対する支援のさらなる充実が求められるようになった.日本における障害のある学生への支援は,2016年4月の同法の施行により国立及び公立の高等教育機関において合理的配慮の提供が義務化,私立においては努力義務とされ本格的な取り組みが開始された.さらにこの2024年4月1の改正法施行により,私立においても合理的配慮の提供が義務化されており,日本では全ての高等教育機関において合理的配慮の提供が義務化され支援のさらなる強化が求められるようになった.  日本学生支援機構が毎年「大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」2)を実施している.障害のある学生の数はCOVID-19の影響を大きく受けた2020年度を除き,2005年の調査開始以来一貫して増加の傾向を示しており,2023年8月30日に公開された2022年度調査の結果では,全国の高等教育機関に在籍する障害のある学生は49,672人,在籍割合は1.53%と報告されている.  この数は増加傾向にはあるものの,米国の大学で合理的配慮の提供を受けている学生の割合が20.5%であることが報告されている3)ことと比較しても,高等教育機関で修学の機会を得るという,入学要件を満たせる者ならば誰にとっても当たり前であるべきことが,日本ではまだ十分に実現されていないことを示していると言ってよいだろう. 1.障害者差別解消法  「障害者差別解消法」は,2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約(以下,障害者権利条約)4)」への締結に向けた国内法制度の整備の一環として定められた法律で,その目的は「障害を理由とする差別の解消を推進し,もって全ての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」と謳われている.  障害のある学生への支援は医学教育分野においても例外ではなく,医療専門職養成機関を卒業する学生の大部分が医療従事者を目指すことを考えるならば,いわゆる卒前教育にとどまらず,卒後教育を担い,その人たちの働く場となっていく医療業界全般においても,障害のある人々への差別をなくし,修学や就業の機会を保証しなければならない時代が到来し,それにどのような対応ができるかを具体的に示さなければならない状況にあるといってよいだろう. 2.「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)」  2024年3月に文部科学省は,改正障害者差別解消法の施行に合わせる形で「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)」5)を公開し,これまでの取り組み状況から見えてきた課題を紹介しつつ,今後各高等教育機関で取り組むべき事項について示している.  なお,高等教育機関において障害学生支援の体制を強化するために参考とすべき文部科学省関連の文書としては,2023年12月に改正された「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」6)があり,今回第三次まとめが公開された「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告」については2012年度に「第一次まとめ」注1として障害のある学生に対する修学支援の在り方と対応策等について,2016年度に「第二次まとめ」注2として障害者差別解消法を踏まえた不当な差別的扱いや合理的配慮の考え方や具体的な方策等について取りまとめられ公開されている.これらは同一文書の単なる改訂版ではなく3文書それぞれが新たな課題についての対応策を示しているものであるため,それぞれの内容を全て確認する必要がある点には留意しなければならない.  なお,病院等での臨床実習を必須とする医学教育領域においては,文部科学省関連の文書だけでなく,厚生労働省関連の文書の確認も必要となる.その主なものに「障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドライン」9)があり,これについても2024年3月に改訂版が公開されている.  今回の第三次まとめで改めて強調されたのは,「障害の社会モデル(以下,社会モデル)」の理解に関すること,障害の根拠資料に関する考え方,そして新たに紙幅を割いて取り扱われた項目としては,オンライン学修における合理的配慮の考え方がある. 3.障害の社会モデル  第三次まとめにおいても改めて理解の促進が求められた社会モデルは「障害者権利条約」においても,「障害者差別解消法」においても,その基本的な対応策の支柱として示される考え方であり,障害者福祉領域にとどまらず,対人援助領域のあらゆる場面においてしばしば強調されている.  障害のある学生の修学支援に関する検討会報告ではこの社会モデルについて,第二次まとめでは「障害者が受ける制限は,障害のみに起因するものではなく,社会における様々な障壁(社会的障壁)と相対することによって生ずるものという」形で説明している.  社会モデルの対概念として示される考え方が,「障害の医学(個人)モデル(以下,医学(個人)モデル」である.医学(個人)モデルとは西倉(2016)10)は「障害者の社会生活上の不利(ディスアビリティ)の原因を心身の機能の障害(インペアメント)に還元する考え方」のことであり,「ディスアビリティを克服する方法として治療やリハビリテーションといったインペアメントへの医学的介入を重視する」ものであるとしている.また社会モデルについても西倉10) は「ディスアビリティはインペアメントそれ自体ではなく,インペアメントと社会的障壁との相互作用によって生じる」考え方とし,さらに「社会的障壁とは建築構造や法律の不備だけではなく,非障害者を中心に形成された社会の支配的価値観や慣習行動なども含む広い概念である」と指摘している.社会モデルの考え方に基づくならば,障害による差別の解消は,本人の努力や本人への医学的介入での解消を目指すだけではなく,社会の側の責任において,社会的障壁の除去によって実現を目指すことになり,その対応策が大きく異なる点に留意する必要がある. 4.合理的配慮とは  この社会モデルに則る形で障害を理由とした差別を解消し,障害のある人の機会均等を図るために用いられるのが合理的配慮である.合理的配慮とは障害者権利条約第2条の定義を引きつつ,障害のある学生の修学支援に関する検討会第一次まとめでは,大学等における合理的配慮とは,「障害のある者が,他の者と平等に『教育を受ける権利』を享有・行使することを確保するために,大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり,障害のある学生に対し,その状況に応じて,大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり,かつ「大学等に対して,体制面,財政面において,均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義づけている.  筆者は多くの高等教育機関で障害学生支援に関する研修会の講師を務めてきたが,多くの大学等で合理的配慮の“合理的”とは何か? 基準等は示せないのか? という質問を受けることがある.この「合理的配慮」という用語が広く認識されたのは,障害者権利条約の対訳版が示された際に“Reasonable Accommodation”の訳語として示された時である.多くの方が誤解されているのが,「合理的配慮」とは障害者権利条約で明示されるに至ったテクニカルタームであり,一つなぎの「合理的配慮」という用語として用いる必要があるという点である.それにもかかわらず,「合理的『な』配慮」と言い換えて用いることは間違いである点に気付かずにいる人は多い.「合理的配慮」はあくまでも障害者権利条約第2条で示された定義や,ここで示した第一次まとめの定義の範囲で考えられる必要があり,これらの定義を超えて過剰に合理的であることを求めるのは不適切である.それは障害のある学生のニーズは多岐にわたっており,本人の状態や置かれた環境や状況によりそのニーズは大きく左右されるからであり,特定の診断や障害種別によって一律に基準を設けて合理的配慮が提供されることを「合理的『な』配慮」とするならば,それは本来の意味での「合理的配慮」とは違った対応になるということに最大限留意しなければならない.  なお,合理的配慮の提供にあたり,特定の診断や障害種別によって一律の基準は示されていないが,障害者差別解消法が示す提供義務を満たす合理的配慮の内容の構成要素は,川島(2016) 11)が示すように①個々のニーズの尊重,②非過重負担,③社会的障壁の除去,④意向の尊重,⑤本来業務不随,⑥機会平等,⑦本質変更不可,という7要素で示されている.合理的配慮はこれらを考慮したうえで決定されていくことになっていることには触れておきたい. 5.合理的配慮の決定プロセスと建設的対話の重要性  合理的配慮は以下の通りの手順で決定され,提供されることが第二次まとめ8)で示されている.なお,紙幅が限られているため以下要点のみ抽出し再整理して提示する. STEP1: 障害のある学生からの申し出  意思の表明ともいう.なお,本人からの申し出ができない場合においても,当該学生が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には,法の趣旨に鑑み,大学等の側から当該学生に対して働きかけることが望ましいとされている. STEP2:根拠資料の提出  根拠資料についての考え方は,第三次まとめでも改めて示されている.「大学等は個々の状況を適切に把握するため,学生から障害の状況に関する根拠資料の提出を求めることが適当である」とされているが,「障害の内容によっては,資料の取得に時間を要する場合や,根拠資料の提出自体が困難な場合があるため,大学等は,そのような状況を考慮することなく,一律に「根拠資料がなければ合理的配慮を一切提供しない」といった,形式的な対応をとらないよう留意する必要がある」とされている.なお,「建設的対話等を通じて,本人の社会的障壁の除去の必要性及び障害の状況が明確に現認できる場合には,根拠資料の有無にかかわらず,合理的配慮の提供について検討することが重要であることは改めて強調したい」ともされている点は重要である.  なお,根拠資料として採用可能なものとして第二次まとめに示されているのは,1)障害者手帳の種別・等級・区分認定,2)適切な医学的診断基準に基づいた診断書,3)標準化された心理検査等の結果,4)学内外の専門家の所見,5)高等学校・特別支援学校等の大学等入学前の支援状況に関する資料等,6)本人が自らの障害の状況を客観的に把握・分析した説明資料等が挙げられており,必ずしも障害者手帳や診断書に限定されるものではない点には留意されたい. STEP3:障害のある学生と大学等による建設的対話  「建設的対話」とは第三次まとめに示された定義によると,「障害のある学生本人の意思を尊重しながら,本人と大学等が互いの現状を共有・認識し,双方でより適切な合理的配慮の内容を決定するための話合いのこと」とされている.第三次まとめでは17カ所で用いられており,これがいかに重要かが分かる.  合理的配慮の内容を検討するうえでは,建設的対話を通じて本人の意思の尊重,意向の尊重を重視する必要があり,障害種別や診断名に基づいて合理的配慮提供の内容を一方的に定める事が不適切とされる点も重視すべきである.この点を中心に第三次まとめでは「合理的配慮の提供における諸課題」として例示を含める形で解説されており,ご一読されることをお勧めする.  なお,第二次まとめに示される建設的対話の留意点では,「建設的対話においては,本人の意思決定を重視し,この意思確認が不在のまま,一方的に合理的配慮の内容の決定が行われることは避けなければならない」「本人が自ら求める支援内容の説明や,意思決定を行うことが困難である場合等は,必要に応じて本人が保護者や支援者の援助を受けることができるようにすることが重要である」と強調されていることにも留意したい. STEP4:内容決定の際の留意事項  この点については,第二次まとめにおいて「合理的配慮の申出の内容が教育に関わるものの場合,まず,当該場面における教育の目的・内容・評価の本質(カリキュラムで習得を求めている能力や授業の受講,入学に必要とされる要件)に不当な差別的取扱いに当たるものや社会的障壁が存在し,それらが障害のある学生を排除するものになっていないかを個別かつ客観的に確認する必要がある.その上で,この本質を変えずに,過重な負担にならない範囲において,教育の提供方法を柔軟に調整する.」と示されている. STEP5:決定された内容のモニタリング  合理的配慮が決定され提供が開始されたのち,その「妥当性や,その後の状況を把握するために,提供した支援についてのモニタリングを行い,必要がある場合には内容の調整を行う」このような流れが一連の流れとして示されている. 6.医学教育と合理的配慮をめぐる課題  日本の高等教育機関では2000年代以降,教育の質保証をめぐる議論が盛んに行われ,制度改革を伴う様々な取り組みが実施されてきた.医学教育分野においても2001年に,医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議から「21世紀における医学・歯学教育の改善方策について-学部教育の再構築のために-」12)の別冊として医学教育モデル・コア・カリキュラム-教育内容ガイドライン-が提示されて以降,大学卒業時までに修得すべき総合的知識・技能・態度についての一般目標と到達目標が具体的に示されるようになった13).  これは米国でのコンテンツベースドな医学教育から,コンピテンシーベースドな教育への移行14)と軌を一にした動きである.また,医療職養成という社会的責任がきわめて重い医療系学部の教育では,学習成果を重視するアウトカム基盤型教育の導入15)が,2010年に米国の医師国家試験受験資格審査 NGO 団体(ECFMG)からの通告を受けて意識されるようになったいわゆる「2023年問題」16)への対応を目指して進められてきている.  大学教育全体でも2017年の学校教育法施行規則の改正により,いわゆる「三つのポリシー」を示すことが義務化されるなど,教育内容・方法,学修成果の評価方法の明確化が進められた.  このように医学教育分野に限らず,高等教育全体の流れとして教育内容・方法,学修成果の評価方法の明確化が進められる一方で,2016年の障害者差別解消法の施行から,障害のある学生個々のニーズに柔軟に対応することを求める制度としての合理的配慮の提供が始まった.これは,教育内容・方法,学習成果の評価方法の明確化と厳格化の動きと,それらへの柔軟な変更・調整の可能性を同時に模索することを大学関係者に求めていることを意味している.高等教育機関における合理的配慮提供では「教育の本質や評価基準を変えてしまうこと」は,合理的配慮の7要素の一つである“本質変更不可”の観点からも許されていない.この各種の厳格化の取り組みと,真っ向からぶつかり合うかのように見える柔軟な対応を求める合理的配慮提供の営みにどのように対応すべきか,医療者のプロフェッショナリズムの観点からも議論を呼んでいる17).  米国では,米国医科大学協会(AAMC)が2018年にLisaらを中心に,“Accessibility, Inclusion, and Action in Medical Education”18)を刊行し,この議論に一定の答えを出そうと試みている.  米国では,1973年リハビリテーション法第504条の施行以来,適格障害者(qualified individual with a disability)の概念を用い,その人が就いているまたは希望する職務の本質的機能を,合理的配慮があってもなくても遂行できる障害のある人に対して,医学部教育を含む,連邦政府から補助金を受ける事業での差別的取り扱いをすることを禁じた19).この適格性を判断する際の基準として,1979年に米国医科大学協会(AAMC)のSpecial Advisory Panel on Technical Standards for Medical School Admissionが米国の医学部の入学,継続,卒業に必要な学業以外の基準を文書化し,障害者の受け入れと配慮に対する学校のコミットメントを伝えるものとすることも意識して,“テクニカルスタンダード”を初めて示している20).すなわち,入学前に医療専門職を目指す者が,自身が適格性を有しているか否かを事前に判断できる仕組みを用意したといってよいだろう.  テクニカルスタンダードは,5つのカギとなる項目として,知的概念能力,行動と社会的属性,コミュニケーション,観察力,運動能力を挙げている.これらは医療専門職を目指すもの,現に医療専門職として従事している者たちがクリアし続けなければならない基準として,多くの大学で,募集要項と共に障害のある志願者が確認すべき事項として示されている.  テクニカルスタンダードは,合理的配慮の提供を受けたうえでクリアされてもよいことになっており,あくまでも医師の職務の学術要件以外の本質要件を示したものであって,障害のある人を実際に排除したり排除する傾向のある基準として策定したり用いたりしてはならないとされていることは確認しておかなければならない19).それにもかかわらずCatherineら21)が示す通り,このテクニカルスタンダードの存在が,新たな欠格条項のような機能を果たすことにより,障害のある学生にとって大きな障壁となっていることも併せて知っておく必要がある注3.  Lisaら18)はさらに,合理的配慮は教育プログラムやテクニカルスタンダードが示す要件と障害のある学生の支援ニーズとのギャップを埋めるものであるとして再度強調し,それを成功させるために実施すべき対話型プロセスを下記の六つの方法で示している.  1.必須要件の明示,2.教員と学生の協力による障壁とその影響についての特定,3.障壁の除去と本人が必須要件を遂行するためのさまざまな変更・調整の模索,4.それぞれの有効性の評価,5.その変更・調整が過度の負担をもたらさないかの確認,6.有効性の検討とそうでない場合の再度の対話プロセスの実施.  ここで強調されるべきなのが,障壁の除去と本人が必須要件を遂行するためのさまざまな変更・調整の模索である.Lisaら18)は医学部教育における障害学生支援の課題を示しつつ,学生の支援ニーズの充足と,学生がクリアすべき諸要件への対応を同時に実現させるために必要なこととして,1.医学教育における専門的な障害者支援サービス,2.臨床現場で求められる配慮事項と学生への合理的配慮を両立させるための情報の共有,3.支援技術の活用,4.合理的配慮提供を場当たり的なものにしないために必要な一貫した対応方針を挙げている.これらの方向性を充実させることで,テクニカルスタンダードのような基準を用いて障害ある学生の修学可能性を一律に判断するのではなく,高い専門性を持った支援サービスをより充実させ,テクノロジーの活用を進め,さらには必要以上に医療従事者に対して万能であることを求めることをやめて,チーム医療の充実化を推進することによって特定の分野への対応が困難な者でもそれぞれの専門性を発揮することで医療現場を支える者として尊重し合えるようにすることが,障害のある人の活躍の場を拡大させることができるだろうことを示している.  このように医師のプロフェッショナリズムや適格性と障害のある学生に対するインクルーシブな対応の在り方については,1970年代からこの問題への対処法を模索してきた米国ですらも明確な答えを得るには至っていない.ましてや日本においてはこの議論は緒についたばかりである.日本の医学教育において適切な形で合理的配慮を提供するための体制づくりのヒントとして,これらの情報を生かしていくことが望ましいだろう. むすびに代えて  米国においても,改めてLisaら18)を引くと障害のある学生の在籍割合が学部教育課程(11.1%)および大学院教育課程(7.6%)全体の割合となっているU.S. Department of Education 201022); Snyder and Dillow 201523)のデータと比較すると米国の医学博士号授与プログラムの学生のうち,障害があると大学に申告しているのは2.7%と(Meeksand Herzer 201624))低い水準に留まっている.  Lisaら18)が指摘するように,障害のある人の多くは,利用しにくい施設,質の低い治療,差別的な態度,ケアを拒否されるなど,医療に対する大きな障壁を経験しており,その経験を有する障害のある人が医療職として医療現場で活躍することにより,それらの是正が進められ,障害のある患者をはじめとした人々への医療格差を減らすことにつながる可能性を有している.また,同様の経験を有する障害のある人が医療者として従事することは,障害のある患者に対してより効果的な医療を提供することにもつながるだろう.障害のある医療者が少ないこと,すなわち,医学教育や医療現場において担保されるべき多様性の一側面から障害のある人が省かれていることは「大いなる機会損失」になるということを改めて確認しておきたい.Diversity, Equity and Inclusionの理念が示す多様性を確保し,障害のある医療系学生の教育の機会を確保することは,今後の医療現場の充実に必ずや寄与するであろうことを念頭に障害学生支援の取り組みの深化が図られることを願っている. 文 献 1) 内閣府. 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律.https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html.(accessed 15 April 2024) 2) 日本学生支援機構. 障害のある学生の修学支援に関する実態調査. https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/index.html(accessed 15 April 2024) 3) U.S. Department of Education. National Center for Education Statistics. (2022). Digest of Education Statistics, 2022, Table 311.10. Number and percentage distribution of students enrolled in postsecondary institutions, by level, disability status, and selected student characteristics: Academic year 2019-20 https://nces.ed.gov/programs/digest/d22/tables/dt22_311.10.asp (accessed 15 April 2024) 4) 外務省.障害者の権利に関する条約.https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000899.html(accessed 15 April 2024) 5) 文部科学省. 障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)について.2024.3. https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/123/mext_01732.html(accessed 15 April 2024) 6) 文部科学省.文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針の策定について.2024.1.17.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/mext_02599.html(accessed 15 April 2024) 7) 文部科学省.障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)について.2012.12.15.https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/12/1329295.htm (accessed 15 April 2024) 8) 文部科学省. 障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)について.2017.4. https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/074/gaiyou/1384405.htm(accessed 15 April 2024) 9) 厚生労働省.「障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドライン~医療分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針~」の改正について.2024.3. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39383.html (accessed 15 April 2024) 10) 西倉実季.対象者の拡大可能性 合理的配慮を必要とするのは誰か.2016.川島聡ら.「合理的配慮 対話を開く 対話が拓く」.有斐閣.p.145-61. 11) 川島聡.差別解消法と雇用促進法における合理的配慮.2016.川島聡ら.「合理的配慮 対話を開く 対話が拓く」.有斐閣.P.39-67. 12) 文部科学省医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議報告.21世紀における医学・歯学教育の改善方策について―学部教育の再構築のために学部教育の再構築のために学部教育の再構築のために―.2011.3.11.https://mededucation.hiroshima-u.ac.jp/cont/wp-content/uploads/2022/04/impr_measures.pdf(accessed 15 April 2024) 13) 吉村明修.―医学教育トピックス―わが国の医学教育改革の流れとモデル・コア・カリキュラムの変遷.日医大医会誌 2012;8(1). 14) AAMC. Competency-Based Medical Education (CBME). https://www.aamc.org/about-us/mission-areas/medical-education/cbme.(accessed 15 April 2024) 15) 田邊政裕.総説:学士課程教育の三つのポリシーとアウトカム基盤型教育.医学教育2017;48(4):237-42. 16) 奈良信雄.2023年問題を受け,日本医学教育評価機構発足.医学界新聞.2016.03.14.https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2016/PA03166_02 (accessed 15 April 2024) 17) 向原圭ら.部会報告:プロフェッショナリズム部会 発達障害関連学生支援ワークショップ2023.~医師の卒前教育における合理的配慮と教育の質保証・社会に対する説明責任の両立~.医学教育 2023;54(5):484-7. 18) Lisa M. Meeks, et al. Accessibility, Inclusion, and Action in Medical Education: Lived Experiences of Learners and Physicians with Disabilities. 2018. Association of American Medical Colleges (AAMC). 19) 長谷川珠子.アメリカにおける合理的配慮について.2008.06.厚生労働省 第3回労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会資料2. 20) Association of American Medical Colleges (AAMC). Medical Students with Disabilities: A Generation of Practice. 2005. 21) Catherine Stauffer, et al. Technical Standards from Newly Established Medical Schools: A Review of Disability Inclusive Practices. 2022. Journal of Medical Education and Curricular Development Volume 9: 1–7 22) U.S. Department of Education, Institute of Education Sciences, National Center for Education Statistics. Profile of Students in Graduate and First-Professional Education: 2007–08. Publication NCES 2010-177. https://nces.ed.gov/pubs2011/2011172.pdf. Published October 2010. (accessed 15 April 2024) 23) Snyder TD, Dillow SA. Digest of Education Statistics, 2013. Publication 2015-011. Washington, DC: National Center for Education Statistics; 2015. https://nces.ed.gov/pubs2015/2015011.pdf. 2010. (accessed 15 April 2024) 24) Meeks LM, Herzer KR. Prevalence of self-disclosed disability among medical students in U.S. allopathic medical schools. JAMA 2016; 316(21):2271-2. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5217456/ (accessed 15 April 2024) * 筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局,Associate Professor, Breau of Human Empowerment, Tsukuba University 受付:2024年4月16日,受理:2024年4月16日 注1 障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)7) 注2 障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)8) 注3 障害者権利条約を批准している日本を含む国々ではその理念に照らし、障害のある人たちを適格か否かで分けて対応すること自体が認められていない。米国では“適格障害者”の考えに基づいた法律等があることも理由の一つとして、障害者権利条約を批准していないことについては確認しておく必要がある。今後仮に日本において何らかの形でテクニカルスタンダードの導入が検討されるならば、この点に最大限の注意が払われる必要があり、この条約を批准している日本においてどのように対応すべきか広く議論される必要があるだろう。