“医療関連企業による医学教育への資金提供 AAMC作業部会の報告書” |
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この報告書は、近年、医療界内外で高まっている医療プロフェッショナリズムに関する議論のひとつ、利益相反に関するものである。 利益相反とは、“主要な利益(primary interest)に関する専門家の判断や行為が、副次的な利益(secondary interest)によって不当に影響を受けるリスクが発生する一連の状況”(米国医学研究所: Institute of Medicine[IOM])と定義され、近年、我が国でも臨床研究における利益相反に関する取り組みが、厚生労働省、文部科学省、および様々な学術団体において実施されるようになってきている。 しかし、医療現場での利益相反は臨床研究だけにとどまらず、一般臨床医にとっては臨床研究における利益相反よりも、むしろ日常臨床、医学教育の場における利益相反の頻度の方がはるかに多い。これは米国では特に深刻であり、一般臨床医と製薬企業との不適切な関係が社会問題となり、医療専門職のプロフェッショナリズムが損なわれかねない状況が高まっており、Patient Protection Affordable Care Actの“Physician Payment Sunshine Act”により、2011年1月からの医療専門職に対する企業からの金銭を含めた贈り物の内容を公開することが行われるようにもなった。 我が国でも日本製薬工業協会が2011年1月19日に“企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン”を発表し、2012年度からの製薬企業から医療専門職に対する金銭を含めた贈り物の内容を2013年度から公開することとなった。医療専門職と製薬企業の関係を透明性のあるものとする取り組みは、双方に対する社会からの信頼を維持するために重要なことであり、この取り組みは評価に値する。 しかしながら、我が国では、一般臨床、医学教育の場における製薬企業との適切な関係に関するガイドラインは、医学学術団体からは発表されていないばかりか、その議論もほとんどなされていない。 この翻訳プロジェクトは、一般臨床、医学教育の場における利益相反の議論を、今後、我が国で広く展開していくための参考資料とすることを目的としている。本報告書の内容すべてを我が国に導入することを進めようとするものではなく、まずは、この問題に関する医療専門職者の関心を高め、幅広く各医療専門職者が参加しての議論の端緒となることを目的としている。そして、医療専門職団体から本翻訳報告書のような報告書が我が国でも発表されることを、次の到達目標としたいと考えている。 2012年7月 日本医学教育学会 倫理・プロフェッショナリズム委員会 * 本報告書の翻訳はAAMCの許可(2012年4月13日)を得て実施されている * 本報告書の原本はAAMCのホームページより入手可能である * 本翻訳プロジェクトの一部は、下記の助成を受けて実施されている |